「バカって言ったヤツの方がバカ」って攻防兼ね備えた強カードですよねこんにちは。
好きな漫画を好きなように紹介しております当ブログでございますが、今回は一切なんの他意もなく、ただただ好きな作品についてだらだら書いていこうと思っております。
概ねいつも通りではあるのだけど。
いやなんでこんなエクスキューズを差し込んでくるかと言うと、今回紹介するタイトルは、正直言ってちょっとオススメしにくいやつなんですよ。
面白いのは間違いないし、大人気作品でもあったのだけど、いささか長いんだよ。完結済みで、全49巻ある。
俺だったら、こんなのどれだけオススメされてもちょっと尻込みする。誰だってそうでしょう。
なので、未読の方は「ふーんそんな漫画あったんだねー」くらいの感じで全然いいです。仕方ない。
そんな諦めの境地でご紹介致しますのは、私の大好きな漫画『嘘喰い』でございます。どうか最後までのんびりとお付き合いくださいませ。
『嘘喰い』ってどんな漫画ですの
うそぐい、と読みます。「くい」じゃないよ。「ぐい」。
えー、『嘘喰い』は06年~18年までヤングジャンプで連載されていた、ギャンブル漫画です。ざわざわしないタイプのギャンブル漫画。
作者は迫稔雄先生。これがデビュー作。
デビュー作なだけあって、回が進む毎にどんどん絵が上手くなってきます。1巻の絵柄はなんだったんだろうってくらいに。全体通して、基本的には劇画よりの技巧派だと思う。
で、ちょうどこの『嘘喰い』と同じ時期に、あのみんな大好き超人気漫画『キングダム』が連載開始してんだね。両作ともヤングジャンプ掲載。
『嘘喰い』が06年24号開始で、『キングダム』はちょっと早い06年9号開始ですって。
『嘘喰い』も『キングダム』も、連載開始当初はなかなか人気が振るわなかった。苦境を共に乗り越えてきた戦友みたいな感じなのかね、迫先生と『キングダム』の原先生は結構仲が良いみたい。
なんか、いいよねこういう関係。同じ雑誌で人気を競うライバルでもあり、友でもありみたいな。少年漫画原理主義者にはそそるヤツですな。
はい。それでは例によって試し読みリンクを。
まあ読んでも読まなくてもいいかな、って感じだけど。って言うのは、1話があんまり面白くないんだわ。トリックもびっくりするぐらい稚拙、というか、しょぼい。
この試し読みで『嘘喰い』を判断されちゃうのは、勿体ないと思ってしまう。なんとかこの記事で『嘘喰い』の魅力を、もうちょっと伝えられたらと思う。がんばれ俺。
ええそれでは、『嘘喰い』の大まかなストーリーを説明しますね。
主人公・斑目獏(まだらめ ばく)が、ある組織を乗っ取る為、ギャンブルで勝って勝って勝ちまくるお話。以上です。
身も蓋もないな。
これじゃさっきの試し読みを100回読み直した方がマシじゃねえか。わかったよちゃんと真面目にやるよ。もうちょっと読んでおくれよお願いだよ。
『嘘喰い』の魅力
とりあえずまずは簡単な紹介。いつものWikipediaのやつ。『嘘喰い』とは
ギャンブルを題材とした作品で、実在・オリジナルを問わず幅広い種類のギャンブルやゲームが取り上げられ、登場キャラクターが様々な頭脳戦を繰り広げる。一方で、殺人が容認されたギャンブルを勝ち抜き、負けを踏み倒したり勝負から逃れたりしようとする相手を逃がさないための暴力や権力にも重点が置かれており、格闘漫画・アクション漫画としての一面も備えている。それらシリアスなストーリー展開の中に時折、叙述トリックや言葉遊び、シュールなギャグが挟まれ、単行本には巻末にラフ画の描き下ろしギャグストーリーが掲載されている。
Wikipedia 嘘喰い 概要の項目より引用
ここにもチラッと書かれてるけど、まず『嘘喰い』の大きな特徴の1つとして、ギャンブルで戦うターンとは別に、格闘場面もふんだんに盛り込まれているってのが挙げられる。
これが「おまけ」みたいなちょっとしたものではなくて、かなり本気の美麗な絵描写で描かれてるのです。とても迫力がある。例えばこんなん。
嘘喰い 25巻 迫稔雄 集英社より引用
毎度、紙からのキャプチャは粗くて申し訳ないすね。何か良い方法を知ってる方は是非教えて欲しい。
ええっと、こんな感じの格闘描写が『嘘喰い』には頻繁に出てきます。そんなギャンブル漫画なんです。
俺このシーンの、ブチ蹴り上げてる男の右手が好きでね。何か洒落くさいんだけど大好きだこういうの。
あと下の方にたくさんいるモブがとってもシュールね。一応、戦ってる2人はこのモブどもの上司なんですけどね。何故みんなそんな無表情なのか。好き。
それと右下に大きく描かれている「3」。3です。「ろ」じゃないです。
これは「戦闘開始から3秒経過しましたよ」というカウント。この戦い、10秒以内に決着しないといけないルールがあるんです。良い感じにあたまがおかしいんだ。
まあまあ大体こんな感じで、ギャンブル漫画ですけど格闘シーンもめちゃくちゃ格好良いし楽しいよっと。けれん味がたっぷり。
そしてメインのギャンブルについて。これがもう最高。
出てくるゲームは、概ねシンプルなルールのものが多いです。たまにクソ複雑なやつもあるけどね。
で、ほぼ全てのゲームに言えるんだけど、この漫画、「運」で勝負が決まる事がほとんどない。毎回なんらかのトリックで勝ったり負けたりするのです。
大体、敵のキャラがあらかじめ仕込んだトリックだったりその場で機転を利かせたりして、主人公たちをハメようとするのよ。
でもこの漫画の主人公、その界隈では通称「嘘喰い」と呼ばれておりましてね。こいつが毎回、相手のトリック(嘘)を逆手に取って、鮮やかに逆転勝利をキメるんだ。これが、超格好良いしめちゃくちゃ気持ち良い。
嘘喰い 43巻 迫稔雄 集英社より引用
決め台詞の「あんた嘘つきだね」。よく言うわ!って思いますよ。こいつも散々相手の事だまくらかすもの。全く。ほんとに。格好良いんですよ。あと絵が上手い。きれい。獏さん格好良い。素敵。
ただこのギャンブルターンでの、勝ち筋に至るまでの道のりが本当に複雑。論理に論理を積み上げて、心理の裏を読んで罠を仕掛けて、罠に掛かったと見せかけて逆に罠にハメたと思ったらやっぱりそれも罠で、とか。
それらのやり取り、駆け引きに「運」が全然絡まないっていうのは、やっぱりギャンブル漫画にしてはちょっと特殊かな、と思う。とにかくこの漫画、全てにおいてロジカルなんだな。徹底してる。
ゲームが始まった瞬間、もしくは始まる前から、嘘喰いと敵、双方があの手この手を仕込みまくるんだ。何気ない1コマが、ゲーム終盤で重大な伏線になっていたりね。
最後の最後に種明かしをされても「え、何、いつ?」っていう事がよくある。よくあるどころじゃないわ、毎回思う。これ連載中に雑誌で追いかけてた人は絶対つらかったよな。
全部種明かしされたら、コミックス引っ張り出してそのゲームの最初から読み直すぐらいしないと、全てを理解するのは難しい。というか、多分無理。
その代わり、1度この世界にハマってしまうと、種明かしの快感が病みつきになってしまう。次のゲームが始まると、敵と味方の一挙手一投足が、全て意味のあるものに見えてきちゃって、もうドツボ。そうして気を張って読み進めても、最後にはやっぱり「やられた」ってなるから凄い。
そうして全てを理解したりしなかったりして、ある種の解放感・満足感を覚えながら「あんた嘘つきだね」を拝むわけです。
これは快感ですよ。是非多くの人に味わってほしいものです。
主人公・斑目獏について
それではここからちょっと込み入った話を。まずは主人公・嘘喰いこと斑目獏についてから。
この漫画は獏さんが「ある目的」を果たす為に四苦八苦するお話です。最初から最後まで一切それはブレない。
ただし、獏さんが何故それを果たしたいのか、どうしてそうなったのか、は作中でほとんど語られない。「それっぽい事」は最後の最後にちょろっと出てくるけど「そもそも」って考えるとやっぱりわからない。
そして、これは青年誌の主人公には珍しくない事かもしれないけど、49巻も続いた漫画なのに獏さんのバックボーン的なものは全くもって謎。家族とか幼少期とか一切描写なし。恋愛的な話も皆無。そもそもマトモな女性キャラがいないからなこの漫画。
一応かろうじて15歳頃を舞台にした過去編があるんだけど、この時すでに獏さんは「嘘喰い」として最強級のギャンブラーだったし、「ある目的」も追いかけ始めてる。やっぱり全然彼の背景は描かれていない。
サブキャラの幼少期は、結構出てくるんだけどね。継父と実母に強要されて当たり屋をやらされてた梶ちゃんとか。
で、じゃあ一体どうしてこんな描き方されてんだろって考えたんだけど、きっと獏さんは神様なんじゃねえかなって思ったの。あ、大丈夫ですよー、大丈夫大丈夫。大丈夫だって!!
どういう事か。つまり、獏さんには15歳以前の歴史なんて(必要)ないし、ギャンブルに命を懸けるのにも理由なんてない。ただただ賭け事に身を投じて、勝つだけ。それしか機能がない存在なのよ。「ある目的」というのも、その生き方の果てにただそれがあっただけとも思える。
これってもう、神とか悪魔とか、そういうヤツじゃないですか。描かれるべき人間性みたいなものが全く抜け落ちているんだし。
うん。じゃあ例えばみんな大好き赤木しげるはどうだったか。彼も『アカギ』作中では、人間性の欠落した「賭け事の化身」じみた描かれ方をされてる。でも元々彼が登場した『天 天和通りの快男児』では、最後の最後で若年性アルツハイマーを患い、最期を迎えるに当たって非常に人間的なやり取りを交わしている。彼はちゃんと人間として死んでいった。
いや、獏さんだって、人間らしいやり取りはするんだよ。カリカリ梅が大好きとかね。
でも前述したけど、この漫画はあまりにもロジカルにできてる。それは獏さんの描写についてもそう。仲間たちとのほんわかした日常パートみたいなものも、後々のストーリーで結局ゲームの勝敗に繋がっていたりしやがる。
ここまでくると、獏さんのやることなすこと何もかもが「ある目的」達成の為の布石に見えてしまうんだよな。そしてそれは、多分そこまで穿った見方ではないと思う。
獏さんの人間性は、意図的に欠落されてる。そして作中で描かれる人間離れした洞察力・駆け引き。彼が本当に彼らしくある瞬間は、賭け事に殉じて人間性を失った時。
だから多分獏さんは「神がかった人間」程度のものではなく、きっと「神そのもの」として描かれてるんだと俺は思った。
そんな獏さんを象徴するシーンが、漫画の終盤にあるんだけどね。
命を懸けた大勝負、負けたら死んじゃう戦いのクライマックス。獏さんと相手方、両者の背後にそれぞれ仲間たちの幻影が浮かぶ。それは彼らを支えてきたものでもあり、背負っているものである、みたいな描写なんだけども。
いよいよ勝負が決まるという瞬間。獏さん側の幻影陣に、獏さん自身の幻影が現れる。
そいつがこんな感じのセリフを吐く。
「もう消しちゃおう、この虚構の群れ。お前はこんなもの必要としていない」
そんな主人公ある?仲間ぞ?一緒に命賭けてここまでやってきた仲間たちぞ?必要ないって。消しちゃおうって。
こんな奴はもう人間じゃないんですよ。少なくとも、勝負の最中は人間以外の何かになってるとしか思えない。そして、そこまで行かなくては辿り着けない境地が、彼を「嘘喰い」たらしめているのじゃなかろうか。
そんで最後には、神たる存在にひれ伏した人間を見下して言うんすよ。「あんた嘘つきだね」つって。は。何それ超エグい。拝むしかない。やっぱり獏さんは神。決定。
あとちょっとだけライバルの事など
獏さんのこと、散々アゲへつらってきました。でも実は、『嘘喰い』をザッと読んだだけだと中々こんな感想は抱かないかなとも思う。
何故か。それは、彼の対峙するライバルたちが同じく人間離れしているからです。
特にこの人。最大の友であり敵、お屋形様。
嘘喰い 42巻 迫稔雄 集英社より引用
人間離れしているとは言ったが、宇宙人とは言っていない。
いやまあある意味宇宙人というか、うん。宇宙人でいいか。こいつ宇宙人です。
『嘘喰い』は、神と宇宙人がギャンブルで戦う漫画でした。すごい。
はい。えっとですね。このお屋形様も中々に頭のおかしいキャラとして描かれているんです。上の画像を見ていただけたら一目瞭然なんですけど。いや、そういう事じゃなくて。
例えば計算能力や洞察力その他諸々、獏さん顔負けレベルでバケモノじみてるし、他人の心理を誘導するなんてのもお手の物。
最終的には「自分に備わっている能力を全て完璧に使いこなす」事が可能になっちゃって、自分自身の「都合の悪い記憶を消す」事までできちゃう。それって、自分に備わっている能力、って言っていいんですかね。宇宙人には、備わっているものなのかな。
まあまあともかくですよ。こいつがとってもわかりやすく人間離れしてくれているおかげで、獏さんの非人間性がちょっと薄れるというか、陰に隠れるんだと思うわけです。
他にも、黒孩子(ヘイハイズ)として産まれ過酷な環境で育ったせいで鉄の精神を得た男、とか、正体不明の犯罪組織リーダーで優秀な人材の死体をダイヤモンドに加工して持ち歩くのが趣味の頭おかしい人、とか。詳細は省くけど、嘘喰いに匹敵する化物がぞろぞろ出てくるよ。
みんな、嘘喰いに、負けちゃうんだけどね。
多くの敵キャラたちは、圧倒的に化物だしモンスターなんだけど、どいつもこいつも獏さんに化けの皮を剥がされて(嘘を喰われて)人間になっていく。
でもその過程で描かれる彼らの「わかりやすい非人間性」が、相対的に獏さんを「人間っぽく」見せているのじゃないかな、と思う。こういうやり方はなかなか上手いよなあ。
あ、そんでまたお屋形様の話に戻すんだけど、彼は獏さんよかよっぽど人間らしいんだよ。宇宙人だけど。
お屋形様はね、自分の人間離れした能力だとか生まれもった才能なんかを「天命」であると捉えてるんだ。
そういう運命だから、そうやって生きるんだ。っていう感じ。ちゃんと自分の人生に理由を持ってる。
でもその理由って結局は天命、つまり神から与えられたもの。あ、もういいですかこういうの。いらないですか。そうですよね。はい。
とりあえずの、最後に
えっと。結局、獏さんは物語の最終盤で「ある目的」は達成します。お話自体は結構綺麗にまとまって、良い最終回を迎えてると思う。
目的を果たした後も、獏さんはギャンブルの世界に居続けるし、今まで以上に危険な戦いに挑んでく。
だけども。彼はギャンブルを通じた神であり続けるのか、それとも今まで倒してきた相手のような怪物となっていずれ誰かに皮を剥がれるのか。はたまた、1人の人間として生活を手に入れるのか。
それはわからない。でも、目的を果たしたことで、もしかしたら「変化する可能性」みたいなものが、何となく感じられるエピローグだった。
まあまあそんな感じでね。全49巻という決して気軽に読める作品ではないけど、いつか機会があれば、是非触れて欲しい作品ですよという話でした。機会があれば。あれよ、機会。
うわあ長々書いたなとは思ってはいたけど、気が付いたらかつてない文字数になってやがんの何これやばい。
まだ全然語り切れてないのに。いい感じで締めようと思ったけどまだまだ書いてない事がたくさんあるのよ。
でも仕方ないので今回はここまで。また改めてもっともっと楽しい『嘘喰い』の世界を紹介したいと思います。くっそ。絶対書くからな。
それでは。長いことお付き合いありがとうございました。おつかれさまです。
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