学生時代のバイト仲間に「自称霊感少女(JK)」がいたんですよ。「あたしそういうの見えるから!超やばいから!」みたいな。的な。顔面がそこそこ整っていた子だったので、うわあすごいねーつって適当に話合わせて仲良くしてましたけどもね。
あれもし宜保愛子みてーな顔してたら多分止めてたよ、息の根を。いや女子高生に宜保愛子をアイコラするとか無理ないか、そっちのが怖いわ。
はい。全く脈絡がありませんが今回は『スプリガン』です。少年サンデーで89年~96年まで連載されてました。
大きくジャンル分けすれば、バトル漫画って事になるですかね。作品の半分くらいは飛んだり跳ねたり、撃ったり殴ったり、爆発したりしてるし。でもただのバトル漫画じゃねーぞ。ねーよな。
ええ、作者はみんな大好き皆川亮二先生。原作はたかしげ宙先生です。そう、言わずと知れた『ARMS』のゴールデンコンビですね。
皆川亮二先生は連載開始当時25歳。既に画力がすさまじい事になってる。主人公がエピソード毎に高須でクリニックしてるんじゃないかってくらい顔変わるけど、とにかく上手い。原作と分かれてたから、たっぷり描き込めてたのかな。
うん、なんで『スプリガン』なの、って言う方もいらっしゃるかもしれませんね。『ARMS』やれよ、って言う。
わかるよ、わかるけども。こっちにも事情があるんですよ。深いやつが。
ええ。『ARMS』は全巻実家に置きっぱなしでしてね。手元にあるのは『スプリガン』だったんすよ。それだけだよ。許せよ。こっちはほら、全11巻だしね。本棚に優しいんだ。
いやそれだけじゃないですよ。本当に『スプリガン』は良い漫画で、大好きなんだ。
オカルトの入門書としても最高だし、現代まで続く少年漫画の文法も大体揃ってたりする。これだけ読んでおけば90年代の漫画・アニメの事は8割くらいわかっちゃうんじゃないかってくらい。とにかくおすすめなんだよ!レコメンドなの!
はい。そんな「世紀末オタクの教科書」漫画ですが。どこまで紹介できるものか。やってみる。
オカルトのこと
みんなオカルト好きかい。俺は大好きだよ。怖い話を聞いたり読んだりするのは最高にエキサイトするよね。
この国は大体いつの時代もオカルトブームなんだけど、一応年代ごとに流行り廃りとか傾向みたいなものはあるみたい。その辺に興味がある人は適当なワードでググってもらえばいいとして、とりあえずここでは『スプリガン』前後のオカルト背景をさらっと撫でておこう。
『スプリガン』が少年サンデーで連載を始めたのが1989年。平成元年ですね。
この時代のオカルトって、今とはかなり雰囲気が違っていて何だかわからないものが、何だかわからないままでいられたんだよ。インターネットなんて全然全く普及してなかったからね。
テレビではUFOとか超能力なんかを、結構大真面目に、ゴールデンタイムの特番でよく取り上げてた。子ども心にはね、大真面目に見えたもんだよ。30代以上の人にはわかるだろうけど「ノストラダムスの大予言」なんかかなり真剣に考えこんだりね。まあそういう時代。
あと新興宗教みたいなやつがわらわらーっと表に出てきた時代だったかな。オウム真理教が犯罪集団だって認識される前の時代。あの人たち、結構普通にテレビのバラエティとか出てたからね。
そんで、オカルトの話をすると必ずどこかで絶対目に入ってくるやつがいる。「月刊ムー」だ。はいWikipedia先生の概要です。
キャッチコピーは「世界の謎と不思議に挑戦するスーパーミステリーマガジン」。主な内容はUFOや異星人、超能力、UMA、怪奇現象、超古代文明やオーパーツ、超科学、陰謀論などのオカルト全般である。全般的にオカルトに肯定的な記述がされている。
Wikipedia ムー(雑誌)より引用
これ結構読んでる大人がいたみたいだよ。面白い時代だなって思う。まあまあ、そんな感じですよ。オカルトがとっても流行っていましたとさ。
そんで、このWikipediaに書いてある月刊ムーの「主な内容」。これが全部そのまま『スプリガン』のネタです。大体全部やってるんだけど、主題はやっぱ「超古代文明」。主題というか、それを軸にして、あとはなんでもかんでも放り込んどけって感じ。
ただオカルトをそのまま流用するのではなくて、たかしげ先生のアレンジがかなりいい感じに効いてるのが良い。
例えばオリハルコンなんて金属が出てくるんだけど、『スプリガン』では「精神感応金属」とか言われてて人工筋肉スーツに使われてたりする。なんだかよくわからんかもけど、雰囲気は伝わるよね。単純に滅茶苦茶固い金属ってだけで使わないのが洒落臭い。
そうかと思えば「賢者の石を触媒にして精製されるんだよ」みたいなトコは外さない。お約束はちゃんと踏襲する。流石だぜ。
こういうエッセンスが作中いたるところに散りばめられててまあ最高。ヒトラーが聖杯で復活して、でも実は多重人格で、最後は金剛杵(ヴァジュラ)で自爆、とかね。カオスがありあまる。
そんなこんなで、とにかく『スプリガン』は「オカルトネタ何でもやりたい漫画」です。節操が割とない。
そんで、何でもやりた過ぎちゃってエピソードが結構多いんだ。全11巻で22個ある。
ただ、お察しの通り、1つのエピソードはそんなに長くない。大体1巻の中に2つ、多い時は3つくらい収録できちゃう。その短いエピソードに、オカルトネタと超格好良い戦闘シーンと深い人物描写まで入っちゃってるのだから、こんなの名作に決まってるよ。
さてではどんなオカルトネタを扱っていたのか。実際に見てみましょう。
ええ。見るの?非常に面倒臭いのだが。嫌だよ、やりたくないよ、絶対だるいやつだよこれ。誰か読むのかよ。えええ、やるの。はあ。絶対読んでくれよな。
1.炎蛇の章
- 富士山麓文明(宮下文書)
- オリハルコン(初出、以後頻出)
- CIAとKGBの対立(当時1989年。ソ連崩壊は91年12月)
- 精神波(なんかよくわからんけど気みたいなやつ。後にサイコブローとか言い出すやつ)
- 三次元空間に時間が存在しない物質(は?)
- バイオテクノロジーで改造された超人(当時こんなのすげー流行ってた)
- ヒヒイロカネ(≒オリハルコン)
2.仮面伝説の章
- テスカポリトカ(アステカ神話)
- パレンケ(マヤ文明)
- 人豹(ワージャガーと呼ぶらしい。オルメカ文明)
- 魔術(なんでもありじゃねえか)
- 機械化小隊(サイボーグ。こいつのキャラデザイン完全にターミネーター)
- ケツアルクアトル(アステカ神話)
- 古代人に文明を与えたのは宇宙人だったよ説(宇宙考古学説と言うらしいよ)
- ケイ素系生物(SFでよく出てくるやつ。ググれ)
3.ノアの箱舟篇
- ノアの箱舟(知ってる)
- ↑アララト山で発見(トルコ。興味がある人はググってね)
- 敵のデブとガリが「ファットマン」「リトルボーイ」(大らかな時代だね)
- 獣人(ライカンスロープ。自分の血を見ると変身するよ。ありがち!)
- ノアの箱舟は大気を調節するよ(壮大なマッチポンプですね)
4.狂戦士の章
- オーパーツ(なんて言うか、全部オーパーツだよねこの漫画)
- 「マハーバーラタ」や「ラーマーヤナ」にはミサイルとか核爆弾とか描写されてる説(すごいね)
- レーザー光線は濃密な蒸気の中では威力が激減(この漫画で知りました)
5.帰らずの森篇
- ラーマとシータ(ラーマーヤナ。インド!)
- 神酒(不老不死の妙薬。ソーマと読むらしい。しかしインドで不老不死と言えばアムリタではないのか)
- ↑ギリシャ神話ではネクターって言うよ(ジュースじゃん)
- 即神仏(即「身」仏だと思うんだけどね)
6.水晶の髑髏
- 水晶ドクロ(超有名なオーパーツ。でもなんかインチキだったらしいよ。つまらねー世の中になっちまったね)
- ネオナチス(鉄板)
- 氣(気でいいじゃねーか)
- ヒトラーのクローン(6人いる!)
7.龍脈地図 御神苗抹殺計画
- マッパムンディス(ピーリー・レイースの地図。オーパーツ)
- 巨石遺跡(ストーンヘンジとかね)
- レイライン(複数の遺跡が直線状に配置されてるやつ。オカルトっぽーい)
- 風水、龍脈(今でもよく聞く。当時としては結構新しかったんじゃない)
- 子どもをさらって戦闘機械に育て上げる(あるある)
- 地球ガイア仮説(ガイア理論、今でもたまに見かける。これも当時すげー流行ってた)
8.混乱の塔
- バベルの塔(俺が英語喋れないのはこいつのせい)
- 外典(英語でアポクリファと言います)
- 黒魔術師、呪術師(何でもあり感)
- 宗教戦争(ためになる漫画だよ)
- 魔法陣(ぐるぐる)
9.獣人伝承
- 魔法使い、魔女(味方で出てくると楽しい)
- マーリン(アーサー王の伝説でおなじみ)
- コーリングビースト(陰陽道の式神の変形、霊物質(エクトプラズム)で作った幻影の魔獣よ。あ、はい)
- 吸血鬼(ライカンスロープの一種で血液を定期的に交換しないと生きていけないらしい。難儀だね)
10.終末計画
- スーパーコンピューターが人類を支配しようとする話(はいはい)
- ヤーマ(閻魔様です)
- CGで催眠(電子ドラッグ的な)
11.聖杯
- 聖杯(聖杯)
- 金剛杵(ヴァジュラ。雷属性。ATK+150)
- 霊媒体質(宜保か!?)
12.忘却王国
- ロシナンテ(ドン・キホーテの馬。安い)
- フィラデルフィア実験(おふねが瞬間移動したんだってすごいね)
- カーリー(女神転生でおなじみ。ヒンドゥー教の神)
- サンダーボルト(第二次大戦中、原爆を積んだまま行方不明になったB-29 という都市伝説)
- 二重身(ドッペルゲンガー。メモリの無駄使い)
13.降臨
- ドゴン族(ドゴン神話ってのがあるのですって。アンマとかユルグとか)
- ノンモ・アナゴンノ(ドゴン神話の神)
- オアネス(シュメール文明の神、ノンモに似てるんだって。面白いね)
- 発火能力者(パイロキネシス!語感がいいよねパイロキネシス!)
- 太古の環境を立体映像で保存(モンハンやりてえ)
- ノンモの船(ノンモはシリウス星の方から来た宇宙人なんだと。こういうの多いね)
- ヴィマーナ(空飛ぶ宮殿あるいは戦車、宮殿と戦車って大分違う。こいつはインド製)
- 天浮舟(こっちは安心のメイドインジャパンですぞ)
14.不死密売
- 八卦掌(実在する中国武術。かっけえ)
- エレクシィ(ELXIって企業がインドにあるらしいけどよくわからん)
- 大唐西域記(三蔵法師が書いた本。実在するんだってよ)
- 神を宿す手を持つ男(オヤジはもっとうまく盗む)
- 仙術(三忍になれる)
15.修学旅行
- 賢者の石(大量のホイミスライムを煮詰めて作りました)
- 忍者(内閣調査室でスパイ技術の教官をしているとの事。ちゃんと仕事しろ)
16.精霊惑星
- 創造主タイオワ(ネイティブアメリカン、ホピ族の神話)
- 大精霊(ネイティブアメリカン、ホピ族の神話)
- ホピ族の予言(ネイティブアメリカン、ホピ族の神話)
17.獣人伝承2
- 合成獣(キメラ。勘のいいガキが嫌われるやつ)
18.人工進化
- インカ時代に穿頭手術してました説(こっわ)
- 暗示にかかった人間に火だと言って別のものを押し付けるとそこが火傷する説(ひどい)
19.聖櫃
- 聖櫃(アーク。キリストの死体が入っているのかと思ってた。違ったみたい)
20.賢者の石
- 1人の意志で数人の部隊をコントロールする(モビルドール的な)
- 日本軍事生産大国化計画(時代を感じますなあ)
21.山岳ピラミッド
- ピラミッド日本起源説(そんなわけあるか)
- 要石(要潤)
- フォッサマグナ(フォッサマグナ!)
22.龍脈地図 炎蛇再来
- スプリガン(まんま大魔神)
- ロードス島の青銅巨人(ロードス島って実在したんだね知らなかった)
おらああああ!どうだ、読んだのか。絶対読んでないだろ。こんなの絶対誰も読まないよ。俺だったら読まないもの。くっそ。
「これオカルト?」って思いながら勢いで入れたやつとかあるけど、まあいいか。誰も読んでないからな。と言うか、そもそも俺なんでこんなリストアップしたんだっけ?よくわからなくなったぞ、どうせ誰も読んでないけど。
ええ、とりあえずはこんな感じでした。聞いた事あるオカルトお約束ネタから、そんなのあるのね、っていうネタも多分あったんじゃないでしょうか。俺なんかドゴン族とか全然知らなかったし、今さっき調べるまで架空のものだと思ってたからね。
さて。いきなりこんだけ文字数使ってオカルトの事を書いたものの、『スプリガン』の本質は多分そこじゃないんだよ。もっと面白要素がたくさんあるんだよ。でも力尽きつつあるからちょっとだけにするよ。
短いエピソードがたくさんあってキャラクターもたくさんいる
前段でエピソードが短めでたくさんあるよ、と書きました。果たして何人の方が覚えていらっしゃるでしょうか。
この1つ1つのエピソードがどれも上質。よくできている。短いから収まりがいいんだな、無駄なシーンないし。
そしてそこに出てくるキャラクターが皆とても良い。決して個性的というわけではないんだけどね。かなりテンプレートな作りなんだけど、お約束を丁寧に消化していってくれるので、見ていてとても安心できるんだ。
こいつこの先こうなるといいなあ、ってのは大体その通りになる。こういうの気持ち良いよね。
そしてキャラの出し方がニクい。主人公の御神苗優(おみなえ ゆう)は全エピソード皆勤賞なので置いといて。
1つのエピソードの中に、味方側のサブキャラが大体1人は出てくるんだ。で、こいつが毎回変わるのよ。ある時は非戦闘員だったり、ある時は一緒に作戦遂行する相棒だったり。まあ様々。
中盤以降は、敵キャラもしょっちゅう再登場してくる。敵なのか味方なのかはっきりしない奴もいるよ。みんなこういうの大好きだよね。
んで、繰り返しになるけど、1つのエピソードがあまり長くないから、お話がぎゅっと凝縮されて映画みたいになってんのよ。その映画が、第22作目まである、みたいな感じ。
そんな風に捉えると、この「キャラクター(主人公以外)交代再登場制」っていうのはさ、同じ漫画なのに「過去作のあのキャラがこんな形で再登場!」つって盛り上がれちゃう仕組みになってると思うんだ。上手いよね。まあ洒落臭い。
このスタイルを採ってる漫画って、意外と他に思いつかない。『ONE PIECE』が似たような事やってるけど、あれはスパンが長すぎちゃってな。1つのエピソードが短いっていうのが、これ重要な要素だと思うんだ。
お約束を絶対やり遂げる気持ち良さ
はいこれも前に書きました。もうちょっと詳しく書きますぞ。
『スプリガン』でやってるお約束を思いつく限り挙げてみようか。
- バトルマニアの敵は主人公との戦いを邪魔されると怒る
- そいつは戦闘に関係ない所では主人公を助けてくれる
- 獣人になったら身体能力上がるけど、冷静さを失うので実は人間状態の方が強い
- 洗脳されて機械みたいに戦ってた過去があり、その状態になるとクソ強いけど洗脳克服したらもっと強い
- でもなんだかんだで東洋武術の使い手が最強
- 悪い機械「人間滅ぼそうと思ってとりあえずお前らを試したけどやっぱ人間いい奴じゃん」
- 出自が謎のキャラは実は組織の有力者でした
- まんまと敵にお宝奪われたけど、お宝のせいで敵は死ぬ
- 何回も戦う敵キャラがいつの間にか味方になってました
- まあ大体アメリカが悪いよね
- 最終章は全員集合
他にもありそうだけど、とりあえず。そのまんま『ARMS』でやってるやつも割とあるね。好きなんだろうな鉄板ネタが。
まあまあ。やっぱり基本はバトル漫画なのでね、主人公(か味方キャラ)が強くなる系のは気持ち良いもんですよ。洗脳されてて~みたいなのを『HUNTERxHUNTER』のキルアが思いっきり同じような事やってたりね。ああ、当然、これもうお約束なので『スプリガン』がオリジナルだぞ、っていう話では全然ないすよ。
こういうお約束のオンパレード、悪く言えばひねりのない展開が続くのにも関わらず、作品はちゃんと面白い。
漫画に限らず物語的なものって本当は「意外性」が必要だと思うんですよ。『スプリガン』は物語の中に「意外性」がない。
当時はあったかもしれないけど、今この時代に読むと、まあほとんどないと言い切っちゃっていいと思う。
でも、絵の力とその演出力、オカルト設定の面白さ、この辺が全部カバーしきってる。後半になるにつれてキャラクターのエネルギーがどんどん強くなるのも良い。
実際、オカルトリスト挙げた時に思ったけど、後半になっていくと新しいオカルト要素はどんどん減っていくんだよ。その代わり、キャラの掘り下げが多くなる。
こんな感じで、平成初期のオカルト漫画の傑作『スプリガン』でした。未読の方は是非。既読の方ももう1度読んでみると、また違った発見があるかもしれないすね。
以上です。ありがとうございました。
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