『からくりサーカス』がアニメ放送中だったり、原画展が開催されたり(11/20で終了)と最近なにかと名前を見かける藤田和日郎先生。
現在サンデーで『双亡亭壊すべし』を連載中、既刊10巻。
大好きなんですよ。この漫画。でも連載中の漫画なのでね、ネタバレを控えつつ書きます。
簡単にご紹介
ホラーバトル漫画です。
双亡亭という幽霊屋敷がありまして、コイツがどうやら超ヤバいらしい、と。
それじゃあ、って事で、超能力者とか科学者とか軍隊とかかき集めて、双亡亭ぶっ壊すぞ!っていう話。
ホラー描写が結構エグいので、その辺で好みが分かれるかも知れませんね。
苦手な人はとことん無理だろうけども、好きな人にはたまらないやつ。
どんなもんかと興味がある方はこちら(e-book)へどうぞ。試し読みの部分だけで十分に味わえるかと思います。
作者はみんな大好き藤田和日郎先生。先生のテイストが全開していて、俺はこの漫画大好き。
もしも藤田先生の作品のどれかが好きで、『双亡亭壊すべし』をまだ読んでない方がいらしたら、迷わず読んで間違いないと思いますよ。
「双亡亭」とは
それではちょっと分解して書いていこうと思います。
と言っても、未完の作品だからね。大した事は書けないんだけど。
10巻まで読んで、俺が考えた「『双亡亭壊すべし』ってどんな漫画」という話です。
まずタイトルが結構すごいよね。『双亡亭壊すべし』て。家を壊せって事でしょ。そこに突っ込んだか、とまず思いました。
「毒親」とかね。その手の言葉を見聞きする事が多くなったりしてて、結構時代に乗っかってるやつだな、っていう。
いやそうでなくても、もう結構前から「家庭がぶっ壊れてる」なんてよく聞く話じゃないすか。虐待とか。
そこまで強い言葉で括れなくても、家族関係で苦しんでいる人はきっとたくさんいるんだろうなっていう時代。
少年少女は言わずもがな、大人になっても「親の呪縛」から解放されないままとかね、ザラに聞くもんな。
そういった「家庭・家族」にまつわる苦しみから救われようぜ、というのがテーマなのかなあ、と思いました。いやこれ結構、しんどいテーマだぞ。
少年漫画でこんなの、やりきれるものかなって、不安になっちゃう。
でもそこは藤田和日郎先生ですからね。期待せざるを得ない。多分きっと大丈夫よ。
それから「双亡亭」って名前もなんか意味深。両方死ぬ家、だよ?怖い。
両方って、何と何なんだろうかね。自分と家族?私と貴方?内側と外側?
この辺がまだちょっとわからないかなあ。お話が完結するまでには、何かしらの答えが得られればいいな。
主人公が最高
この漫画、登場人物のほとんどみんな、双亡亭の破壊を目的にしている。
で、こいつら大体「家族」についてのトラウマを抱えてるんだよな。まあ、そういうお話だよね、というのは前段で書いた通り。
その中でほとんど唯一、「家族トラウマ」を克服しているキャラクターが主人公であるタコハおじさん。
この主人公が本当に最高。超ゴキゲン。
この漫画、全体的にまー暗いのだけども、この主人公のおかげで読者はかなり救われる。
なんというか、お化け屋敷でずっと側にいてくれてる感じというかね。
とにかく頼りになるんですよ。バトル的な能力ほとんどないクセに。主人公なのに。
でもそこがまあなかなか、この漫画を象徴しているというか。
タコハが戦うのは、屋敷にわんさかいるバケモノじゃないのよ。そいつらと物理的に戦うのは他のキャラにおまかせ。ちゃんとそっち方面の主人公もいる。
タコハは、前段で書いた「家族にまつわるトラウマ」と戦ってくれる。いや、実際に戦うのはもちろん、トラウマ抱えた本人なのだけども。
やっぱそういうさ、心理的な戦いって1人じゃ無理なんすよ、リアルに。1人じゃ大体負ける。心が死ぬ。
当然、代わりに戦ってやるなんてこともできないよね。当人の問題だもの。じゃあできる事と言ったら、側にいる事と、話を聞いてやる事くらいかな、っと。
誰かが負けそうになった時、なんかこう、気の利いた事でも言ってやるとかね。
タコハがやってるのは、本当にその程度の事。多分誰でもできる事かもしれなくて、だけど誰もが誰かにやって欲しいと願ってる事でもある、と思う。
大した事じゃないんだけど、実際にそれをやってくれる人ってきっと、ヒーローじゃないすか。少なくとも、トラウマと戦った本人にとっては、紛れもなく。
あ、それでね、藤田先生さすがに上手いなと思うのが、タコハの立ち位置。タコハ本人もちゃんとトラウマ持ってたんだよ。
それを、きっちり克服してる。少年漫画的な「戦う力」はないけど、精神的には凄く強い。そういう描写をさらりときちんとやっている。
だから読んでいて、説得力があるし、すんなりタコハの事を好きになれる。下手すると「偉そうな事言ってんなコイツ」って思われちゃう設定なんだけど、しっかり回避できてると思う。上手い。
続・主人公が最高
タコハおじさんのそういう姿って、現代日本に望まれているヒーロー像の1つだよな、と思う。
タコハってとても精神的に余裕がある人に見えるんだよね。
力は弱いし、バケモノに出くわせばビビったりするんだけどさ。そういうトコじゃなくてね。
双亡亭壊すべし 第五巻 藤田和日郎 小学館 より引用
こういう顔しちゃうトコとか。あ、一番左下のメガネがタコハです。
このページに出てくる人物の中で、1番弱いんだよコイツ。そんで「死ぬかもしれん」とか言われてるのにね。
できるできないとか知らないし、リスクがあるのもわかってるけど、やるしかない。そういう時に、全然気負った様子を見せないこの雰囲気は、周りを救うよね。
全く余分な事を喋ったりもしないしさ。
この造形、今までの藤田作品にはいそうでいなかったキャラだと思う。熱くもなく、冷たくもない、ただただ広い、というキャラ。
こういうキャラクターを主人公に持ってくるのが、藤田先生の嗅覚なんだろうな。
つまり、こういう奴が近くにいたら嬉しいよね、っていう感覚。みんなが今求めてるヒーローってこういう感じじゃない?っていう。俺はドンピシャでした。タコハおじさん友達になってくれ。
あ、おじさんおじさん言ってるけど、全然年下だったわタコハ君ごめん。
とにかく俺はこの主人公に完全にやられました。大好き。こういう人に私もなりたい。
最後に
大体テーマとキャラクターはこんな感じで。
ストーリーは、結構いつもの藤田和日郎です。練り込まれた設定があって、謎・伏線を丁寧に回収していくやつ。
戦闘描写も相変わらず格好良い。もう一人の主人公、青一(1巻表紙の少年)は手足をドリルに変形させて戦うよ。熱いよね。超熱い。
ただ冒頭でも触れた通り、今までの作品と比べるとホラー要素が結構強い。序盤で色んなキャラのトラウマと向き合うシーンが続くんだけど、そのどれもこれも描写が怖い。
だからこそ、それを乗り越えた時のカタルシスがひとしお、というやつです。
ああ、最後に、テーマの話で1つだけ。
7巻から登場するキャラクターにちょっと引っかかるものがあるんですよ。
作品は現代日本が舞台なんだけど、時間の流れがおかしくなってるという設定がありまして。戦前の軍人と女性が出てくるんだよね。
「家をぶっ壊す」というテーマで、戦前の人物を出すという。
うがった見方かもしれないけど、「昔はよかった」みたいな事をやられると個人的には鬱陶しいなあ、と思ってしまっている。
今のところ、そういう描写はないし、これからも多分ないと思うんだけどね。
はい、大体こんなところです。
『うしおととら』『からくりサーカス』をはじめ名作が多い藤田作品。『双亡亭壊すべし』もきっと期待を裏切らない作品だと思います。未読の方は是非。
以上です。ありがとうございました。
コメント