先日、友人がこんな話をしてましてね。
「最近の子どもは我々の子ども時代とは違いすぎて、ちょっと理解できない時がある」
いやなかなか興味深い事を言うなあ、と思って、詳しく聞いてみたんすよ。ちなみに友人と言うのは2児の母で、話は上のお子さん(小学5年生)について。
話は友人が子どもの担任教師と二者面談をした時の事。道徳の授業で「思いやり」的な事をやったんですって。まあよくある「困っている人がいたら助けてあげようね」みたいな事だと思う。
先生をはじめ大人たちとしては、こんなのとてもイージーな事柄で、大した問題もなく「困っている人がいたら助けてあげるべき」でまとまる話だと思っていたみたい。はいはい、そうでしょうね。わかるよその感じ。
でもまあまあ、現実は違った。大人たちの思惑とは真逆で、子どもたちの間に「そういうのちょっと面倒くさいんですけど」みたいな空気が漂ったんだと。いやこれは面白い話だなと思った。そして、なんだかとても納得してしまった。
いやね、恐らく子どもたちも「困っている人がいたら助けてあげるべき」という話は理解していると思うんだ。そういう空気は絶対に読むからなあいつら。
だけども、本心では「面倒くさい(誰も見てなかったら助けない)」。だって、それ助けたとしてなんか自分が得する事ある?とかね。
まーこんな話、大人たちには結構なショックだったんだと思う。子どもってもっと純粋なものじゃないの、っていう。
自分らが子どもの頃はそんな「面倒くさい」とか思わなかったよね、って、その友達は言ってたんだけどさ。俺は思わず「ええ本当に!?」って言っちゃった。
だってさあ、本当にみんな、そんな純粋な少年少女でした?嘘でしょ?
俺が子どもの時は、皆で10円ガム買ったら自分だけ当たりが出ればいいと思ってたし、休み時間にサッカーやったらボールの片付けは絶対誰かに押し付けたかった。掃除はなるべくサボりたかったし、どうすれば宿題をやらずに済むか必死に考えたりしてた。持ってるゲームを貸すのはいいけど、代わりにお前も何か貸せ、当たり前だろ。そういう世界だったよ。
子どもなんてのは、恐ろしく打算的だし、損得で動く生き物だと思うんだ。経験不足故にその計算を間違えるだけ(それが「幼い」という事なのかも)。
とにかく子どもは、全然純粋じゃない。特に小学生なんてのは、一番狡猾な時期じゃないすか。自分の利益の為なら平気で嘘を吐くし、友達だって裏切るんだよ。それで後々痛い目を見る、ってトコまで考えが及ばないだけでね。
思春期に差し掛かった連中の方がよっぽど純粋だよな。思春期というか、反抗期というか、童貞というか。
んまあ、そんな話をしまして。いやー大人になると、色々忘れてしまうものだねえ、と。忘れるどころか、大人にとって結構都合の良い解釈しちゃうよねーって感じでね。なかなか面白かったんだけど。
いや子どもの世界って普通に地獄だったよな、と思ったんすよ。
そりゃ今でこそね「あの頃ぁよかったねえ」なんて言っちゃうけどさ。それは大人だから言える事で、当の本人、子どもが子どものままで子どもの世界で生きる、ってゲロ吐きそうな事いっぱいあったな、って思いませんか。
というわけでですね、大変前置きが長くなったのですが、今回はそういう漫画をご紹介です。『S60チルドレン』という漫画ですが、皆さんご存知でしょうか。
あまり有名な作品ではないんですけどね。俺は大好きなんだ。あ、タイトルの「S」は昭和の「S」です。ショウワ シックスティ チルドレンね。
それじゃどんな漫画なのか、ぼちぼちご紹介させていただきますぞ。
概要をきちんと提示いたしましょう
Wikipedia先生を引用したろと思ったんだけど、この漫画、wikiがない。なかなかいい感じにマイナーじゃねえか。ええ、それじゃ以下に概要ね。
S60チルドレン 作者は川畑聡一郎。2003年~2005年、イブニングに掲載。
主人公は小学四年生男児。昭和60年(1985年)、弱くて未熟なクソガキ共がドロドロの毎日を必死に生きる日常漫画。基本的には1話完結。小学生の日常が、痛いほどにリアルで生々しく描かれた傑作。全4巻。
大体こんな感じ。こんなのぐだぐだ書かんでもね、ココ(e-book)で試し読みできるからしてみて。2話の途中まで読めるみたい。
んで、見てもらったらわかるけど、絵が結構独特なんだよね。頭がでかい、っていうのはよくある記号的な描き方だけど、それに加えて手もでかいんだよ(足もでかい)。
この「頭と手がでかい、でも体は小さい」というのが、実に作者の「子ども観」を表していて面白いな、と思うんだ。考える事や実際にやっちゃう事も大人びたいんだけど、結局やっぱりお前子どもだよね、っていう現実。
そんな感じのね、子どもならではの希望と絶望が、克明に描かれた漫画です。
あ、ちなみに舞台になってる過去島(鹿児島)、1話では桜島が象徴的に出てきたりするけど、全体を通して見ると場所ってあんまりどうでもいいなって漫画だった。
日本の地方都市ならどこでもまあ似たようなもんだよねっていうスタイル。
鹿児島ゆかりの何か、みたいな事はほぼないと思う。台詞も全部標準語。あしからず。
さてそれでは時代はどうか。タイトルにもなっている「昭和60年」という時代。これはこの漫画にとって重要な要素なのか。これも俺は正直あんまりそう思わない。
そりゃね、当時小学生だった人たち、つまり作者と同世代(1975年生まれ)であれば、共感できる事はより多いと思うよ。当時のあるあるネタも散見されるしね。
でもこの作品の本質は多分そこじゃない。「S60」ってのは単なるフックであって、この漫画の大事な所は「チルドレン」に尽きる。
だから今の若い人にも全力でおすすめするよ俺は。大丈夫。これはお前らの為の漫画だ。その辺ちゃんと書いてく。
主人公は吊り橋
この漫画の主人公、音仲晶。小学4年生、男子。父(単身赴任中で作中には一切出てこない)、母、弟と4人家族。中流家庭で育ったどこにでもいる普通の少年だ。
ただ一つ、彼がこの漫画の主人公足り得る要素を挙げればそれは、彼がちょっと大人びているという所。ちょっと、ってのがポイントよ。背伸びしてるっていうかね。
こいつね、同い年の友達だとか自分を取り巻く環境みたいなものを、やたらと俯瞰で眺めていようとするのよ。
自分も子どもで、他の連中と大して変わらないという現実はあるんだ。でもそんな現実からどこか遠くにいたがっているような、そういう印象を持たせる。
まーそんな事思っててもね、晶もその他の友達と同じく、どうしようもなくクソガキなんだよ。
同じように弱いし、失敗もする。その現実を受け入れつつも、多分どっかで抗いたいって思ってるんだろうな。
「子どもだから」という諦めと、「子どもだけど」という反抗が、子どもらしくもあり洒落臭くもあるっていうかね。
なんというか、作中では一言も明言してないけど、晶は大人になりたいんだろうな。そういうキャラクターだと思う。
で、主人公である晶がそんなキャラだから、つまり、(子どもでありながら)子どもより上の目線で回りを見ようとする奴だから、うまい具合に大人である俺たちと作品世界がリンクできる。
晶が子どものまま、ギリギリまで大人側に寄ってくれてるから、そこをプラットホームにして俺たちもチルドレンの世界に入っていけちゃうんだな。
これはつまり、俺たちが大人のまま子どもの目線を持てるというわけですよ。この絶妙チューニングが『S60チルドレン』の凄さの一つかな、っと。
いやこの仕組みね、実はもう一つ恐ろしい仕掛けがあるんだけど、それはちょっと書かないでおく。変な先入観になっちゃうと嫌だし。是非、自分の眼で確かめてみて欲しい。絶対にやられる瞬間があると思うんすよ。それは、この仕組みの仕業です。
ざくっとエピソード周りの事でも
そんじゃ一体どんなお話があるんだい、って事でね、ふんわりと紹介します。
大体1エピソードに、晶以外の主人公が1人いて、そいつにフォーカスした話が展開されます。まーよくあるパターンよ。大体そいつが何らかの問題を抱えていたりね、なんか事件が起きたりね、そういうやつ。そんじゃどんな事が起こるのか。こんな感じ。
- 真面目な秀才と不真面目な天才の勉強対決
- 落ちこぼれ不良の転落と希望
- 席替え
- 人気者の黒い部分
- 「許す」という友情
- 小学生のくせに人間関係ひっかき回す恋愛脳少女
- いじめ
- 別れ
などなど。小学生じゃなくても普通にありそうな問題・事件・テーマがちらほらあるかな。逆に、小学生ならでは、というものも勿論ある。そのどちらも面白い。何かしら考えさせられる事も多かったりね。
とにかく多くのエピソードで「あるある」って思わせてくれる描写がふんだんに取り込まれてて、そういうトコは本当に上手いなと思う。
そして突然やってくる、感情ジェットコースター回な。これがまた、非常にやばい。特に3巻に収録されてるいじめ回は、どうしようもなく切なくて、泣けてしまう。是非1度読んでみて欲しい。
あとね、試し読みをした方はちょっと気が付かれたかもしれませんが、こいつら小学生のくせに普通に彼氏彼女がいたりしやがります。は?生まれて10年やそこらで?俺お前の何倍人生やってると思ってんの?死ぬの?俺が。
いや、死にそうになるのよ本当に。もう殺してくれって思うくらいに、甘酸っぱい。なんなの。
これ、当初晶は自分らの恋愛を「おちゅき合い」だって言ってるんだけど、段々そうも言ってられなくなっちゃう。どんどん沼にはまっていく。
いやそれでもね、「おちゅき合い」だよなーってこっちはね、大人だからね、ちょっとそう思ってしまいそうになるのよ。そこで乖離するのか、乗ったままでいられるのか、その辺は正直人それぞれなのかなーと思いますけど。
ただどちらにしろ、最終回まで読めば、気持ち良くなれるはずだよ。最後にはちゃんと、晶は俺たちと離れてチルドレンじゃなくなる。その爽やかさを、味わってもらいたい。
本当に良い漫画なんです
いかがでしたでしょうか。ちょっとマイナーな作品だけども、少しは面白さが伝えられたかしら。
自分が子どもの時も確かにこんな感じだったな、っていうのをね、ちょっとでも思い出させてくれるような漫画だと思います。
確かにあの頃はつらいことがクソほどあったよなーとか。くだらない事がめちゃくちゃ楽しかったよなーとかね。
そんでなんだかんだ今こうして大人をやってんだから、なかなか大したもんだと思うよ、って言ういわゆる「復活コンテンツ」でもあるなー、とか。
最後になりますが、作者の川畑聡一郎氏は、2005年にガンで亡くなられています。
連載終了も2005年だから、最後の方は闘病されながら描いてたのかなあと思うと、胸が熱くなる。
あ、漫画はとてもきれいに終わってるよ。打ち切りみたいな終わり方じゃない。ちゃんとした最終回で最高だった。それは保証する。
連載当時からイブニングで楽しみに読んでいたので、川畑先生の訃報は本当に残念だった。先生のご冥福をお祈りします。
以上です!ありがとうございました。
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